収益額127万ドルの奇跡、ゲーム募金The Humble Indie Bundleの成果

2010年5月4日から11日までの1週間、インディーズゲーム会社のWolfire Gamesが大規模なキャンペーンを行いました。その名もThe Humble Indie Bundle。任意の金額を募金するとインディーズゲームが6本も手に入ると言うものです。しかもゲームの大半は、World of Goo(2D BOY)、Aquaria(Bit Blot)、Gish(Cryptic Sea)、Lugaru HD(Wolfire Games)、Penumbra Overture(Frictional Games)、Samorost 2(Amanita Design)と、IGFでの受賞歴がある人気作品ばかり。話題が話題を呼び、インディーズゲーム業界を巻き込んだ一大イベントになったのでした。

キャンペーンの詳細は次の通り。

募金を兼ねた投げ銭企画

大抵、このようなキャンペーンは販売促進のための安売りと思われがちです。ゲーム配信サービスのSteamでも、定期的に複数のゲームを20ドル程で纏めて販売しています。ですが、固定額を提示しなかったことによって、全ゲームの通常合計額よりも多い金額を支払った人々まで出てきました。

予め価格を設定せずに購入者の善意に任せる販売方法(Pay-What-You-Want)は、日本的な感覚から言えば、「投げ銭」や「寄付」に似ています。支払いが1セントだけだろうと1000ドルだろうと誰も咎めたりはしません。過去にも同業では2D BOYKloonigamesが行いました。オンライン販売では、音楽業界等を含めて、ここ2~3年のうちに流行り出した手法です。

しかし、Pay-What-You-Want方式が増えてくると、インパクトに欠けてしまい人が集まらなくなってきます。今回は募金と言うスパイスを添えたことで、気軽にお金を提供したくなるような空気作りに成功したのではないでしょうか。

1週間の成果は、1人当たりの平均金額が9.05ドル。11万人が購入し、収益合計額は102万ドル(約9540万円)。キャンペーン終了後も数日間募金を継続。最終的には平均額9.17ドル、購入者数14万人、合計127万ドル(1億1716万円)になりました。大成功と言って良いでしょう。

これらの収益は、開発者、電子フロンティア財団Child's Play charityで分配されます。電子フロンティア財団はデジタル社会での言論の自由のため、Child's Play charityは長期入院で闘病生活を送る世界中の子供達にゲームや本を贈るために活動しています。募金先の団体が、どちらもゲームに密接な関わりを持っていたことも成功の鍵だったように感じます。

また、このキャンペーンの感心するところは、魅力的な内容の他に、その運営手腕にあります。それは徹底的にコストを抑えた事。手数料のかかるSteamやDirect2Drive等の中間業者を通さず、全て自分達で処理しました。更にTwitterやFaceBookのようなSNSを媒体に、宣伝費を節約しつつ世界中に存在を広めていったのです。ただし、幾らコストを抑えると言っても、お金を掛けるところは掛けていました。決済システムは、PayPal、Amazon Payments、Google Checkoutと3種類を用意。ゲームのダウンロード用サーバーには、高負荷にも耐えられるコンテンツ配信サーバー(CDN)Akamaiを利用。正に2010年のオンライン販売の見本のような構成を、大手に頼らず自前で構築したのです。この成功を機に、クラウドサービスやSNSを活用したインディーズゲーム販売は、今後も増えていくことでしょう。

No DRMと海賊版の関係

Saving a penny -- pirating the Humble Indie Bundle (WolFire Blog)

The Humble Indie Bundleは、どのゲームにも一切のプロテクトがかかっていません。いわゆる、No DRMです。OSの買い替えや配布先の消失で動作しなくなる、と言った不安に怯える事なく、何十年先でも自由に安心して遊べるようになっています。この措置はユーザーにとって有難いのですが、海賊版の温床にもなります。

上記記事では、今回のキャンペーンでも海賊版が出現したと書かれています。その数は「P2Pを除いた状態で全体の25%程度だろう」、と。この集計は購入人数とダウンロード数の相違から算出されたもので正確な数値ではありません。ですが、海賊版が出現した事自体が驚きです。極端な話、このキャンペーンでは0.01ドル(1円以下)でも購入することが出来るので海賊版に手を染める必要は皆無です。

記事では、海賊版を手にする人達を次のように分析しています。

  1. 購入手続きをするのが面倒な怠け者
  2. ギフトオプションを使わずに、友達の分も上乗せして一括購入で済ませた人
  3. 決済システムが使えない人(未成年や特定地域住人)
  4. 権力に仇なし尖って生きる反逆者気取りの輩

2と3はともかく、1と4は厄介な手合いです。開発者は一体全体どうやって彼らへの対策をすればいいのでしょうか。記事ではこう結論を出しています。

何も対策はいらない。面白いゲームを作り、顧客満足度の高いサービス提供に注力するのが一番。

要するに海賊版を相手にするだけ無駄と言いたいのでしょう。法律専門の部署があるならいざ知らず、少人数のインディーズゲーム会社では、海賊版対策の労力に見合う成果が出ないからです。中途半端にプロテクトを掛ければ、クラッカーの知的好奇心を刺激してしまうだけで、正規ユーザーに不便を強いることになりかねません。それなら潔くノーガード戦法を貫くのも手です。

インディーズゲームのオープンソース化

Lugaru goes open-source (WolFire Blog)

Zero-day open source contributions (WolFire Blog)

キャンペーン終了後、彼らはゲーム開発者が諸手を挙げて喜ぶサプライズを用意していました。なんと、バンドルされた6本のゲームのうち、4本がオープンソースになったのです。ゲーム開発に興味がある人は誰もがソースコードを閲覧出来ます。オープンソース化したのは、Aquaria(準備中)、Gish(準備中)、Lugaru HDPenumbra Overture

ゲーム制作会社にしてみれば、この行為は自分達の技術と財産を曝け出すに等しく、一歩間違えれば飯の種を手放す事になります。公開後2~3年以内のゲームともなれば尚更です。それ故に、オープンソース化に踏み切ったのには驚かされました。

彼らは自らのゲームを賞味期限切れになるまで売り続ける選択肢を捨て、ゲームタイトルの進化とコミュニティの活性化を望んだのです。このオープンソースコミュニティに多くの人々が参加するのを待っています。ソースコードを読んで自分の技術力を磨くも良し。改良パッチを提供して、もっと面白いゲームにするも良し。ローカライゼーションするも良し。活用方法は無限大です。果たして、どれ程の盛り上がりを見せるでしょうか。開発畑の方々はぜひ参加してみて下さい。またとない機会ですので、私もAquariaのローカライゼーションに挑戦してみようかと考えています。

The Humble Indie Bundleの残した功績は実に大きな物です。商売の方法、ゲーム開発に対する姿勢、どれも参考に値します。2010年現在、日本のゲーム業界は冷え切っているとさえ言われています。しかし、世界規模で見れば、このようにまだまだ熱い熱気に包まれている部分もあります。特にインディーズゲームは今が一番元気です。今後も暫くは目が離せそうにありません。