願いは唯一つ「月へ行きたい」

レビュー:海外インディーRPG「To the Moon」 - RPGの形をしたビジュアルノベル

この記事は、PCゲーム配信サイトPLAYISMさんの企画によるものです。ベータ版のため、実際の製品とは内容が異なる場合があります。詳しくは以下のリンク先を参照下さい。

To the Moon 11月16日配信決定 & レビュワー募集 (PLAYISM)

今回紹介するのはカナダのインディーゲーム製作チームFreebird Games初の有料作品「To the Moon」。既に海外では数々の賞を受賞しています。特に音楽とストーリーに対する評価が高いです。この度、日本語版発売に先駆け、ベータ版を体験する機会を得ましたのでレビューしたいと思います。

RPGの形をしたビジュアルノベル

まず最初に断っておきます。

これはゲームではない。RPGの形をしたビジュアルノベルと言えるだろう。

本作は、エンターブレインより販売されているRPGツクール、その海外版にあたるRPG Makerで作られています。

操作性はお世辞にも良いとはいえません。移動中、頻繁にマップ上のオブジェクトに引っかかり移動を妨げられてしまいます。RPGツクールの限界なのか、プログラミングが未熟なのか。判断がつきかねますが、遊ぶ側としてはストレスが溜まってしまいます。

入り組んだ場所では、マップ上のオブジェクトに引っかかりやすい

また、序盤はマウスクリックを推奨していたかと思えば、慣れてきた頃に、突然、キーボード操作を要求してきます。一貫した操作方法に統一されていないのもマイナス点。更に、一本道のストーリーであるにもかかわらず、突如、無意味な選択肢やミニゲームが割り込んできます。

無意味な選択肢(結果は全て同じ)

ゲームとして扱うのであれば、言葉は悪いですがクソゲーと言わざるをえないでしょう。

本来であれば、RPGではなく選択肢の無いビジュアルノベル形式を採用するのが最適だったと思います。海外でビジュアルノベルが馴染みが薄いことを考慮に入れても、せめて、ポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーにしたほうが無難だったでしょう。

それでも、PRGにして正解だったと思う部分があります。それは、作中のドット絵キャラクターがよく動くこと。しかも滑らかに。このドット絵アニメーションによるドラマに、オールドゲーマーは懐かしさを、ヤングゲーマーは新鮮さを感じるかもしれません。一枚絵の多いビジュアルノベルでは味わえない体験です。

郷愁的なSF作品

灯台の見える高台に住む老人ジョニー。危篤状態の彼の願いは唯一つ「月へ行きたい」

願いは唯一つ「月へ行きたい」

その彼の元へ、かねてより依頼を受けていたシグムンド社の職員エヴァとニールが訪れます。彼らは記憶走査官(メモリー・トラバーサル・エージェント)。今際の際にいる依頼者の願いを、特殊な機器を通し夢のなかで成就させるのが仕事です。

エヴァとニール、操作できるのはこの二人

二人は老人ジョニーの記憶の中へダイブします。その中で、過去へ繋がる手がかり(メメント)を探し出し、 願いを実現するべく、深く深く幼い日への記憶を辿ることになるのです。何故、老人ジョニーは月へ行きたいのか?彼の過去に何があったのか?妻が残した形見の意味とは?

記憶の中へダイブ

依頼の実現方法こそ近未来的ですが、月、灯台、スペースシャトルと、どこか60~70年代の香り漂う郷愁的なSF作品です。

荒削りだが緻密な話運び

このゲームは、老人ジョニーの恋物語の他に、記憶走査官エヴァ&ニールの奮闘も描かれています。老人ジョニーの物語を追うだけに留まらず、エヴァからみたニール、ニールから見たエヴァの姿を垣間見ることができます。

視点の違いで時々変わるキャラクター紹介

いつもは軽いノリのニール。しかして、常に周囲の気持ちを考え慎重に行動する繊細な心の持ち主。普段は冷静沈着事務的なエヴァ。だが、ここぞとばかりは危険を覚悟で大胆な行為に及ぶ熱い心の持ち主。その二人の対比が実に面白い。彼ら凸凹コンビのおかげで、物語にも厚みが出ます。

惜しむらくは、この二人のやり取りがあまりにコメディタッチで、シリアスな本編とは水と油のように感じてしまったこと。もう少し加減して欲しかったです。そのコメディ部分も日本語版は上手いこと訳してあるようなので安心ではありますが。

この駄洒落はネイティブジャパニーズ…(ごくり)

この作品全体を通してみると、まるでストップウォッチで測ったかの如く、テンポ良く新たな展開を提供し退屈させません。一気に最後まで楽しめる構成になっています。

作者Kan Gao氏は物語作りの研究を相当しているのではないでしょうか。この物語の影に隠れたテーマは何なのか? 想像力を掻き立てられます。危篤状態の依頼者の元へ訪れる職員とは、安楽死の送り人の隠喩かもしれません。幸せな、しかし、偽りの記憶を胸に、天に旅立つ心境とは如何なものなのか。当人にとっては至福かもしれないが、周囲の人々はどう受け止めるのか。今までの人生を無かった事にして本当にいいのか。色々と考えさせられました。

彼にとっての本当の幸せとは?

些細な事を言うと、存命中の医者、及び、近年発行された書籍の名前を作中に使ってしまったのはマズかったな、と感じます。どちらも実在していますので、訴訟に発展しかねない危うさ。少々、リアリティを追求し過ぎたのではと思いました。

一見、荒削りで気になる点はあるものの、もちろん、緻密で魅せる話運びなことには変わりありません。

作品を盛り上げる音楽

先の紹介動画でも流れているピアノ曲は、ストーリーをより一層盛り上げ印象付けることに成功していると思います。素朴で耳に残る旋律は、この作品の要とも言えるでしょう。テーマソングを歌うのはゲーム音楽作曲家のローラ鴫原さん(Laura Shigihara)。Plants vs. Zombies天空のメカニカ日本語版テーマソングでも知られており、ウィスパー・ボイスの持ち主です。数々のインディーゲームに参加されています。

実はシリーズ物である

作者曰く、このゲームはシリーズ物の第一作目とのこと。只今、第二作目を構想中。

シリーズ物と言っても続編ではありません。共通の人物は出てきますが、今回で老人ジョニーの物語はお終いです。二作目は、記憶走査官エヴァとニールを通し、新たな依頼人の恋物語が紡がれることになるでしょう。毎回ゲストキャラを中心に話が進む一話完結形式のようです。

また、このエヴァ&ニールシリーズが今後もRPGになるとは限りません。本かもしれないし、アドベンチャーゲームかもしれない。その辺りは、作者への要望次第です。

最後に

マイナス面も多々ありますが、音楽とストーリーは評価に値します。Freebird Gamesの第一作目To the Moon、ジョニーの願いの行き着く先を、ぜひ、あなた自身の目で確かめてみて下さい。きっと、心の糧になることでしょう。

To the Moon

日本語版は上記バナーリンクからPLAYISMにて購入できます。

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