VR空間を自分の足で自由に動け、モーションキャプチャーにも使える予定の最新機器WalkOVR。2019年も終わりを迎える年の瀬、遂に日本の出資者へも届き始めた。しかし、そこには思わぬ落とし穴が待っていたのだった。
何と技適を取得していなかったのだ!
このデバイスはPCとBluetooth通信するため、日本国内では、いわゆる技適が必須となる。未取得のデバイスを購入するのは問題ないが、実際に使用するのは電波法違反になってしまう。
技適には"技術基準適合証明"と"工事設計認証"の2種類があり、前者は機器1台ごとに試験し番号を割り振る。後者は、機種毎に回路図や工場の資料を用意し、試験認証された同製品全てに同じ番号を付与する形だ。今回WalkOVRが取得していなかったのは、この"工事設計認証"と言われる技適である。
ここではWalkOVR社の技適に対する認識、及び特別措置申請方法、今後の展開について言及する。
WalkOVRとは何ぞや?技適とは何?と言う方は以下の2リンクを読んでから先に進んで欲しい。
WalkOVR社の技適に対する認識
そもそも、WalkOVR社は技適について、どう解釈していたのか。我々は彼らの発言をどう解釈したのか。そこについて述べたい。
彼らがKickStarterで6月に初めて出資募集をしたとき、既に日本人バッカーの何人かがコメント欄等を通じて「技適は大丈夫か?」と訊いている。その答えがこれだ。
MIC is no problem.(大丈夫だ、問題ない。)
KickStarterコメント欄より
"問題ない"と言うのが「技適を取得するから問題ない」と、私は解釈したのだが、どうやら当初から実際には次のように考えていたようだ。
技適は、ゲームセンター等の商業向けで問題になることであり、個人使用には無関係だと認識している。
メール問い合わせからの引用翻訳
もっと言えば、FCCやCEマークすら表記されていない。そちらは税関の求めがあれば提出するそうだ。国際法の専門家の意見を訊きながら作業を進めているとのことだったが、法律を甘く見過ぎである。日本は米国に次いで2番目に出資者が多いのだから、もっとしっかりリサーチして欲しかった。税関を通過したら形骸化するような法律ではない。
技適違反にならないため我々が今できる事
技適未取得で発送されてしまったのは、もう仕方ないと諦めるしかない。これからWalkOVRを使用するにあたって、我々が出来ることを説明しよう。
- 電波暗室のような閉鎖空間で使う
電波暗室とは防音施設の電波版だ。電波吸収体を貼りつけ、外に電波が漏れないようにした密閉空間である。ここなら、技適未取得でも自由に実験することが可能だ。一般的な家庭なら備わっていると信じたい。
- WalkOVRに技適取得を促す
これが一番効果的で確実だと思われる。日本出資者130名以上で陳情すれば理解してくれるだろうし、それだけ早く動いてくれる可能性が高い。「技適がないと個人使用でも違法だ。今からでも早急に取得してくれ」と伝えて欲しい。
- 中身のFCC IDで技適特例制度を申請する
これは透視が出来る超能力者が見たWalkOVRの中身である。ひときわ大きなパーツがBluetoothモジュールだ。そこにHC01.comと書かれているのが見えるだろうか。中国のパーツメーカーHC information technologyだ。公式サイトで製品を検索すると、その形状からHC-06と判明した。
このBluetoothモジュールHC-06は、人気の小型PC Raspberry Piで使用する人が多いパーツだ。あえてリンクは貼らないが、米、日アマゾンでも販売されており、検索すれば資料も豊富に出てくる。そして、FCC IDも発見した。
2AEJQHC06がそれだ。
このFCC IDがあれば、今すぐにでも"技適未取得機器を用いた実験等の特例制度"を申請できるだろう。但し、WalkOVRとしてではなく、 "HC-06 Bluetoothモジュールを使った実験"としてである。また、本機器、本パーツともにシリアルナンバーは付されていない。各自任意の番号を割り振って申請しよう。
申請書の送付先は各自治体を統括する通信局だ。関東なら次の通り。Wi-Fi、Bluetoothについてなら、基幹・衛星移動通信課基幹通信室のようだ。部署名が長いので手書きはお薦めしない。やむを得ず手書きの場合は、「技適特例届出在中」と一筆添えておくのが良いだろう。書き損じてしまっても、職員の人が転送してくれる可能性が高まる。
〒102-8795 東京都千代田区九段南1-2-1 総務省 関東総合通信局 総合通信基盤局電波部 基幹・衛星移動通信課基幹通信室
関東総合通信局
郵便ポストへ投函後、到着日には手続きが完了し、登録メールアドレスへ通知が来た。その間、わずか2日。実に早い仕事っぷりである。
ちなみに、更新、廃棄手続き期限は受付日から起算される。そのため、受付日と試験開始日の日付が離れ過ぎていると、試験真っただ中に更新を迫られることになるかもしれない。届出日と試験開始日は1週間以内になるよう調整しておくことをお薦めする。
接続実験の内容をゲームタイトルごとに変えれば、数回の更新期間ぐらいは伸ばせると思われる。もっとも、WalkOVRが技適を取得してくれるまでの延命措置として行う程度に留めておいた方が良いだろう。半年に一回更新するのは大変だ。
今後の展開
まずはWalkOVR社に、技適がどういう法律か認識を改めてもらうことだろう。「個人使用でも違法になる」としつこいくらい報告して欲しい。
ただ、まだ返事待ちなのだが、朗報らしきものもある。私への返事にこんなことが書かれていた。
ただし、商用利用については、日本の代理店との契約に応じて、認証の提供を目指している。
メールからの引用翻訳
商用利用だけ!?と思った矢先、他の出資者さんが受けた返事には次のようなことが書かれていたそうだ。
我々は日本の代理店候補のひとつを通して、技適取得を計画し動いてる。
出資者さん提供情報
どうやら、日本の代理店候補と話が進めば、技適取得がなされるようだ。だが、まだ油断はできない。商業利用に限った話なのかもしれないし、代理店契約がご破算になるかもしれない。また、もし契約にこぎつけても、ヴェルテやリシェア、阿芙(AFU STORE)のような悪質転売業者だったら、目も当てられない結末となるだろう。十分気をつけて欲しいところである。
何はともあれ、WalkOVRが技適取得するまで、まだまだ道は険しい。出資者の皆さん、めげずにサポートと連絡を取り合おう。
2022年初旬追記:ついに技適を取ることなくWalkOVR Classicは終売してしまった。代理店の話もご破算になってしまったようだ。幸いにも、現在販売されている完全無線の新WalkOVRは技適取得済みであるのは救いかもしれない。しかし、KickStarterで出資した人達は複雑な思いであることは想像に難くない。Classic版にもモーションキャプチャー機能がベータ実装されたが、使用には技適特例審査や電波暗室等の施設が必要となる。