本レビューは、KAT VR社 日本総代理店である匠様よりKAT locoの提供を受け、執筆されたものである。以下の基本レビューの派生版だ。未読の方は先に読んでおくことをお奨めする。
こちらでは、専用ソフトウェアKAT Gateway Ver.1.2.0から実装されたモーションキャプチャー機能について、詳しくレビューする。なお、2020年12月末に登場した改善版KAT loco Sと旧KAT locoの比較は新記事に別記している。ここに掲載している動画は主に旧KAT locoのものだ。
目次
はじめに
2020年1月現在、高精度で安価なモーションキャプチャー環境を実現するためには、SteamVRベースステーション2台以上とVIVEトラッカー3つ以上が必要となる。(※Valve Index、HTC VIVEセット未所有者の場合)
製品名 | HTC VIVE ベースステーション1.0基準 税込価格 | Valve ベースステーション2.0基準 税込価格 |
---|---|---|
ベースステーション x 2 | 34,630円(単価17,315円) | 43,560円(単価21,780円) |
VIVEトラッカー2018 x 3 | 38,193円(単価12,731円) | 左に同じ |
合計(税込) | 72,823円 | 81,753円 |
以上のように、ヘッドマウントディスプレイやコントローラーとは別に、約7~8万円以上かかってしまう。しかも、常に品薄で買いたくても正規価格で買えない状況が度々続いている。
また、アウトサイドイン方式なので、壁などの見晴らしのいい場所に、トラッキング座標取得用のベースステーションを設置しなくてはならない。手間とお金と開けた部屋が無くてはならなかったのだ。
そこに登場したのがVR用足踏み移動デバイスKAT locoのモーションキャプチャー機能である。ベースステーション不要で小さく軽量、遮蔽物にも強く長時間稼働する、インサイドアウト方式のお手軽代替トラッカーとして要注目である。1セット3センサー付属で税込33,000円~38,500円だ。
以下はKAT locoを使ってVRChat内で3点モーションキャプチャーした時の抜粋動画である。
御覧の通り、精度はVIVEトラッカーには到底敵わない。動く度に足も滑ってしまう。
本レビューでは、「どんな動作が出来て、何が出来ないのか」「セットアップ方法はどうするのか」を事細かにお伝えし活用方法を考えていきたい。
セットアップ
セットアップ方法はそれ程複雑ではないが、所々つまづく部分があると思う。それゆえ、なるべく省略せずにお送りする。
- KAT GatewayをVer.1.2.0以上にアップデートする
まず、専用ソフトウェアKAT GatewayがVer.1.2.0未満なら、アップデートをしなければならない。システムと書かれた歯車のアイコンを押してシステム画面を確認。
KAT社公式サイトのサポートページから最新版をダウンロードしてこよう。ファイル名は執筆時点で"KAT_Gateway Setup 1.2.1.exe"だ。末尾のバージョン番号は適宜読み替えて欲しい。このセットアップファイルを起動すれば、既存ソフトウェアの削除、及び更新が完了する。
また、KAT Gatewayは自動更新チェックにも対応している。PCの再起動時に新ソフトウェアがあれば勝手にダウンロードしてくれる。が、なぜか更新作業までは行ってくれない。ここでまたPC再起動が必要となる。新ソフトウェアがダウンロード済みだと、Windowsログイン後に突然更新作業を迫られる。まずはウィルスではないかをよく判断したうえで更新されたい。これで手動更新と同じ状態になる。
KAT Gatewayのバージョン番号を見て、Ver.1.2.0以上なら更新成功だ。
- ファームウェアの更新(必要なら)
次にセンサーのファームウェアを書き換えなければならない。この作業は機器が動かなくなる危険性があるため、電力が安定した落ち着いた場所で行うことを推奨する。
ファームウェアの更新はKAT Gatewayのデバイスマネージャから行う。受信機にセンサーが認識されると、それぞれのセンサー画像の下にアップデートボタンが現れる。充電用3又ケーブルをPCに挿し、灰色のデータ線だけをセンサーへ繋げよう。繋げたセンサーと同じ部位の更新ボタンを押せば、1分弱で書き換え完了だ。成功すると"SUCCESS"と表示が変わる。これをセンサーの個数分行う。書き換え中はケーブルを触ったり、抜いたりしないように。また、更新する部位も間違えないように。特に形の似ている左足用と右足用は何度も確かめよう。
万が一、更新に失敗してもKAT Gatewayからリカバリーが可能なので安心されたし。
全てのファームウェアを更新したら、ここで一度PCを再起動。これを行わないと一部のセンサーがモーションキャプチャーで認識しなくなる可能性がある。
- センサーの装着
腰センサーは足踏み移動の時と同じ個所、腰の前面中心、おへその位置に装着する。足センサーは足首ではなく、膝から5cm程度上の前面に取り付ける。特に足センサーは良くずれるので、しっかり前を向くように調整しよう。なお、付属の短ストラップは太ももに巻けない。旧KAT locoユーザーは、止血や荷物用ストラップ、膝サポーターで代用されたい。100円ショップでも手に入る。KAT loco Sは太もも用長ストラップが付属しているので、それを使って欲しい。
- 身体測定
次に下半身の身体測定を行う。メジャーを用意だ。KAT Gatewayの移動モードからMoCapを開き、自身の該当箇所の長さを入力していく。KAT locoはVIVEトラッカーとは異なり、自身の位置を把握していない。そのため、この作業が必須となる。正直、初期値でもそれなりに動いてしまうため、面倒なら今はスキップしても良い。
A | 腰(センサー)から床の長さ |
B | 直立した時の足センサー同士の距離 |
C | 股下から膝の長さ |
D | 膝から床までの長さ |
入力が終わったら、移動モードはMoCapの項目のまま閉じよう。別のモードにするとモーションキャプチャーが行えない。
- ヘッドマウントディスプレイの装着
ヘッドマウントディスプレイを装着したら、VR内で前方を向き、直立姿勢のまま腰ボタンを1回押す。これで各センサーの準備が整った。
- SteamVRのトラッカー設定
次にSteamVRを起動する。SteamVRからKAT locoの全センサーが認識されたか確認。次のようになっていれば成功だ。一部しか表示されていないようならPCを再起動してするのが手っ取り早い。
SteamVRウィンドウの左上にあるメニューボタンを押し、"デバイス"-"Viveトラッカーを管理"を開こう。
この項目でどのセンサーがどの部位に該当するかセッティングしていく。以下のようにすればOK。
これで全てのセッティングは完了だ。SteamVRが起動した状態で、VRChatやバーチャルモーションキャプチャー、バーチャルキャストを立ち上げよう。
- VRChatにおける設定
足踏み移動の時とほとんど変わらない。唯一違う点は、トラッカーの白い丸が1つではなくセンサーと同じ数に増えていることだ。(画像では腰、右ひざ、左ひざの3つ)
これら全てが動いていることを確認出来たら、なるべくアバターと重なるようにTポーズをとり、両コントローラーのトリガーを押そう。はれて受肉完了である。今からあなたはフルトラマンだ。
可能動作検証一覧
本項目では検証動画と共に、可能な動作を一覧にまとめていく。
動作 | 評価 | 説明 |
---|---|---|
足踏み(歩く) | 〇 | その場だと違和感あるが、実際に移動しながらだと許容範囲かも |
走る | △ | 小刻みに激しく動き過ぎると反映されない |
もも上げ | ◎ | 完璧に膝を上げたまま維持できる |
片足外側上げ | 〇 | 膝から下が実際の動きと違うが綺麗に動く |
足交差 | ◎ | つま先までしっかり交差する |
後ろ足 | 〇 | 足を後ろに伸ばしストレッチポーズがとれる |
白鳥のポーズ | △ | 足を後ろに出し、上半身を水平近くまで前倒しする。上半身を倒さないと、足が地面から離れない |
屈みこみ | △ | 足が浮いてしまうが再現は可能 |
しゃがみ | △ | 腰が床に近づくと足が埋まっていく |
体育座り | △ | 膝を胸に近づけないと、つま先が床にめり込む |
寝る | △ | 寝られるが身体が地面から浮く |
うつ伏せ | △ | 腰を少し浮かせた方が良い。ベタっと腹ばいになると首から下が暴れる。仰向けよりシビア |
寝ながら膝上げ | ◎ | 両足共に再現可能 |
寝ながらつま先上げ | × | 膝下は水平を保ったまま動かない |
寝返りを打つ | × | 首から下が大惨事。向いた方へ足ごと捻じれ転がる |
左右腰振り | ◎ | 良く動く。再現度は高い |
前後腰振り | △ | 動いているが腰よりも足がつられて前後に滑る |
両脚ジャンプ | △ | ジャンプするものの、膝から下が交差する(KAT loco Sで改善済◎) |
片足ジャンプ | 〇 | 中の人のツライ表情以外は再現良好 |
脚広げジャンプ | △ | 実際の高さよりも腰が上がり、前かがみになる |
椅子に座る | ◎ | 問題ない |
椅子で足組み | △ | よほどうまく調整しないと足が組めない |
椅子で足上げ | 〇 | つま先は動かないが、ひざの上げ下げが可能 |
現場猫のポーズ | 〇 | ヨシ! |
基本的に、3点モーションキャプチャーでは、膝から下の自由がきかない。センサーがないので当然である。常に下を向くようになっているようだ。それゆえ、腰掛けての足ブラブラやハイキックは再現できない。よくて、控えめな腰掛けM字、膝蹴り止まりである。
また、仰向けに寝る姿勢も再現できたが床とアバターの間に隙間が出来てしまった。もしかすると、中の人の厚み分浮いているのかもしれない。寝返りを打つと首を起点に足先が転がっていくのも残念だった。幸いにも、膝上げだけは可能なので、各自、色々とお楽しみになることは可能だろう。大人の世界を満喫して欲しい。なお、床とアバターの間に隙間が出来てしまう問題はPlayspace Mover等の移動補助ツールを使えば微調整可能だ。
驚いたのは、左右にも足が良く広がることだ。膝を外側に向ける蟹股は無理だが、四股を踏むことは出来るだろう。もしかすると、開脚も再現できる可能性さえある。相撲を取りたい人はぜひ練習してみよう。
KAT locoのモーションキャプチャーは動きの制約が多いものの、アイディア次第で楽しめそうである。コツさえ掴めば、コミュニケーションのフレーバーとして、動画撮影の隠し味として活用していけるだろう。
トラブルシューティング
- モーションキャプチャーモードから足踏み移動に切り替えたらアバターがどこかに消えてしまった。動かない
モーションキャプチャーモードと足踏み移動は、ゲーム及びSteamVRを終了させてから切り替えること。可能だからと言ってゲーム内から直接切り替えると、予期せぬ誤動作に見舞われる。
- 今まで動いていたのに、VRChatで一部、または全部のセンサーが反応しない
一度動作に成功していたにもかかわらず、次にVRChatを立ち上げると、なぜか動かないことが多々ある。そんなときはVRChat、SteamVRを終了させ、もう一度起動し直そう。平均して3~4回繰り返せば全部反応するようになる。この際、PCの再起動までは必要ないが、どうしても改善しない場合は再起動も試そう。
SteamVRで全て認識していてVRChatでだけセンサー数が欠けてる状態の場合は、足を開いたままVRChatを再起動すると全て認識する。それでもダメならKAT Gatewayを再起動するのもありだ。
再起動の方法は、タスクマネージャーで"KAT Gateway Service"と"KAT Gateway.exe"を終了させた後、"C:\Program Files (x86)\KAT Gateway\Gateway_Launch.exe"を管理者権限で起動だ。
- センサーの向きが正面を向いていない。斜めになっている
- 動いているうちに実センサー位置とVRでの位置がずれた
センサーを装着する度に、腰ボタンを1回押して再キャリブレーションしよう。激しく動いてずれてしまった時も同様だ。向きが正しい位置に修正される。この時、正面を向いて直立姿勢を保つ必要がある。また、"コントローラーを持ったまま押さないこと"。Bluetooth通信の電波が干渉するのか、余計にズレてしまう。面倒でもコントローラーを手から外し、素手で腰ボタンを押して欲しい。(新KAT loco Sで改善済)
- 腕に取り付けたけど思うように動かない
- 足センサーを足首につけたけど、つま先が動かない
基本の3点センサーは、腰と太ももへ取り付けること。それ以外の場所は想定されていない。腕は従来通りコントローラーを使って動かそう。3点センサーでは、仕様上、膝からつま先までが自由に動かない。
- 床に埋まった。身体が浮いてしまう
使用しているヘッドマウントディスプレイのソフトウェアかSteamVRから、床の高さを調節。床に片方のコントローラーを置いてみると楽に設定できる。これがずれるとアバターの身長が合わなくなり、上記現象が起こってしまう。特に、インサイドアウト方式のヘッドマウントディスプレイだと、部屋の荷物を移動しただけで発生する。
- 5点モーションキャプチャーのために2セット揃えたけど使えない!
2020年1月現在、5点モーションキャプチャーは未実装だ。1セット3点センサーでだけモーションキャプチャーが行える。追加センサーの個数も提供方法も未定。焦って2セット購入しないように。代理店からもアナウンスが出ている。
まとめ
ヘッドマウントディスプレイの主流がアウトサイドイン方式からインサイドアウト方式へ移ったように、モーションキャプチャー製品も新たな手法で安価な製品が一般流通して欲しいと思っている。思い立ったらすぐに買って楽しめる。それが理想だ。これを実現するうえでも、KAT locoのモーションキャプチャー実装は意義が大きい。トラッキング精度以外は全てにおいて勝っている。(勿論、フルトラが目的なら、トラッキング精度の高さが最重要ではあるのだが)
KAT loco | VIVEトラッカー | |
---|---|---|
価格 | 安価(33,000円) | 高価(81,753円) |
トラッキング精度 | 低い(インサイドアウト) | 高い(アウトサイドイン) |
遮蔽物耐性 | 高い(Bluetooth) | 低い(赤外線+Bluetooth) |
バッテリー持続時間 | 長い(10時間) | 短い(6時間) |
サイズ | 小さい(50mm x 24mm) | 大きい(99.65mm x 42.27mm) |
重量 | 35g | 89g |
総合評価 | 5勝1敗 | 1勝5敗 |
KAT locoでのモーションキャプチャーは、現状限られた動作が行えるのみで、思いっきり楽しむのは難しいかもしれない。が、ソフトウェアが改善され、ブレ補正を調節できるようになったりすれば、もっと素晴らしいものになるのではないかと期待している。
最後にKAT社が開発中の拡張5点モーションキャプチャーの動画を付け加えておく。ジャンプした時につま先が暴れていないのが確認できるだろうか(0:16付近)。些細なことだが3点センサーよりも改善している。
5点モーションキャプチャーはいつ実装されるか未定で、今後本当に実現するかもわからない。だが、代替トラッカーとしての可能性が垣間見えたのも事実。今後のバージョンアップを皆で応援していこう。
今すぐ欲しくなった方は国内正規代理店の特設サイトを覗いてみよう。